「キャリアのためにスキルアップ!」に疲れた大人たちへの希望の物語
「会社でいい評価をもらうには成果を出さないと」
「だからスキルアップのための学びに投資して自分を磨かねば」
「自分の市場価値をいかに上げられるかが勝負」
こんな感じで考えているビジネスパーソンは多いでしょう。しかしまた、彼ら彼女らは、一面ではこういう能力信仰にうんざりしているのではないか?
そういう「疲れた大人」に読んでほしいのが、この『冒険の書』です。あなたが80年代生まれくらいなら、書名からすぐにドラクエを想起するかもしれません。
本書はある意味RPG仕立てで、過去の偉人との対話を繰り広げながら、この社会の矛盾をあぶり出し、次の世代への希望を見出していきます。
著者は孫正義さんの弟の孫泰蔵さん。
本書を貫くのは、現代の能力主義・メリトクラシーへの痛烈な批判です。
「人々は統計的な数字でしかない「能力」を、「人それぞれが生まれ持った特殊なもの」や「磨けばさらに高まっていくもの」のように考えるようになったのです。(P161)
産業革命以降、劣悪な環境におかれた子どもを救うために、彼らは大人から区別された。そして、彼らに社会でうまくやっていく力をつけるために学校をつくった。しかし、その学校は平等をうたいつつ、実際には能力信仰を生み出し、不自由と不平等を加速した。
そういう歴史的経緯を経て、できあがったのが現代のメリトクラシー社会。能力礼賛の世の中というわけです。
コミュニケーション能力、論理的思考力、課題解決力などなど、◯◯力として、数値化され、それがあたかも個人の序列であるかのようにして、職場では評価を受けることになっていないか。
そんななか、今全盛のAIが「メリトクラシーの解放者」になるのではないかと切り込みます。
「人間が人工知能の前にひれ伏すのは決して悪いことではないと思います。むしろ、それによって人間が「労働」から解放されればいいと思うのです。(P198)
「労働者」はAIによって市場から退場させられる。したがって、そういう市場で重要視された能力も意味がなくなることになります。
では、労働から解放された人間は何をすべきか。
それは「地球全体の環境の保全」だと本書は説きます。そして、そのことによって、後世のすべての生命に対する責任を果たすべきだと。
そこから、「人間としていかに善く生きるか?」「公共の利益とはなにか?」という問いにしたがって、次の時代の教育の目的も導き出されます。
「「善く生きる」とは、「人類が自然の生態系を破壊してきたことを反省し、多様な自然を愛で、守る存在として生きること」であり、「公共の利益」とは、「あらゆる種がすこやかに生きていける地球をつくり上げるために世界を変えていくこと」と定めます。そして、これこそが「幸福な人生を送る」ことの新しい定義であり、教育の目的にしたいと思うのです。
なぜか。それは、「地球全体を良くする仕事」こそ、これからの時代の「人間にしかできない最高の仕事」だと思うからです。いくら優秀な人工知能やロボットが登場したとしても、価値判断と創造性だけは人間に残されます。(P315)
最後に人間に残るのは、価値の判断と創造性。
ここが本書の1番のハイライトだと思います。「学びの場は、広い意味ですべてアートを学ぶことになるのではないか」。ここを読んで、私はそんな推測を立てました。
「会社では成果ばかり求められてしまう」ことに疑問を感じつつも、通勤電車に揺られて、ついスマホをいじってしまう。今日も疲れたなと思いながら、なんとなく週末を迎えてしまう…
「あ、自分のことだ」と思われた方は、ぜひ本書を手にとって読み進めてみてください。きっと「勇気と希望の書」になるはずです。
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